僕がベーグルの美味しさを知ったのは、1974年にロンドンに住み始めてすぐに、ブリックレーンという貧民街で開かれる蚤の市で売られている、本当に素朴なドーナツの形をしたパンを食べたのが最初でした。
先日の日記に書いたように、ワイフの父がユダヤ人だったので、このパンがブリックレーンで売られているのを見つけて買ってみたのだが、朝早く出かける蚤の市で食べる焼きたてホカホカのベーグルの美味しさにすぐにハマってしまった。
バターを沢山使うクロワッサンも大好物だが、これはまさに対極というか、小麦と少々の塩以外には全くミルクもバターも使わず、発酵させてから一度茹でてから焼く製法にも驚いた。 そんな材料でなぜこれほど美味しい味が出るのかと。
以来、ロンドン在住時には蚤の市には行かない日でも、どうしても食べたくなると、我が家からは決して近くないブリックレーンまで車を飛ばして買いに行ったものである。
当時は、このベーグルを販売する店など僕の住んでいたケンジントン周辺には皆無だったから。
というより、当時のロンドンの食のレベルの低さは、今では考えられないほどで、パリでは当たり前に売っている美味しいクロワッサンが、ドーバー海峡を挟んだだけの距離のイギリスでは皆無に近く、東京で美味しいクロワッサンを食べてた僕は、ロンドンにも有るはずとずいぶん探したが、結局見つけられなかった。
クロワッサンだけではなく、ピザ屋も無かったと書いたら、若い人は信じられないと思うが、1974年にロンドンに住み始めて数年後に、キングスロードに「シカゴスタイルのピザ屋」が初めてロンドンにオープンすると新聞で話題になって、さっそく食べに行ったのだが、期待通りではなかった。
ニューヨークでは普通に、街角などいたるところで売られているあのピザでさえ、ロンドンには無かったのです。
ついでに書いておくと、1970年代にはすでに日本では大流行りのマクドナルドもまだイギリスには上陸しておらず、思いっきり不味い、Winpyとかいうマクドナルドのコピーのようなチェーン店があったのみ。
まさに食に不毛の国イギリスだったのです。
だからせっかく美味しいベーグルはロンドンの一部で手に入るのに、一般的なイギリス人がベーグルを食べるようになったのは、ニューヨークで1970年代に少しずつ広まり始め、その後世界で一種の流行になってからずいぶん後の事です。
今回のポーランド旅行では、クラカウがこのベーグルの発祥の地らしいと考えていて、昔ロンドンで食べた素朴なベーグルのルーツが発見できるのではと期待していた。
同じポーランドでもワルシャワでは見かけなかった、街角のオブヴァージャネック売りが、クラカウには街のいたるところに出ていて、風物になっている。
これこそがベーグルのルーツだと想像していた。
すぐに屋台で見てみるとどうも期待していたのとは形が違う。
あれ?、これってどっちかって言うとプリッツルに近いのではないかと。
僕が探しているのはこれではないと、少々ガッカリ、すぐに購入さえしなかった。
ちょうど食事を終えてしまったばかりだったので、見ただけで違うと分かるものに食指がのびなかった。
しかし調べて見ると、製法が非常に似ているし、どうもこれがベーグルのルーツとも書いているウエブページもあるので、3種類ほど購入してみた。
サイズ的には僕の探すベーグルよりも大型ですが、食感に多少の近似は有る。
面白いことに、ポーランド人の友人Jerzyに聞いても彼はユダヤ人ではないし、またワルシャワ出身なので、ベーグルどころか、オブヴァージャネックについても「食べたことは有るけど」程度なんですよね。
しかし色々な文献を調べると、ベーグルもポーランドのこの辺りがルーツであるのは間違いないなさそうなのですが、僕の探し求めるものに近いのは結局見つけられませんでした。
ベーグルがユダヤ人のパンというのは間違いかもしれない。
しかし、ニューヨークやロンドンのユダヤ人地区で門外不出で焼かれていたのは確か。
思うに、大戦前にニューヨークやロンドンに移民した、クラカウ出身のユダヤ人が祖国のパン、オブヴァージャネックを懐かしんで、似たようなのを作ったのがベーグルの始まりなのではないか。
ベーグルという名前についても、元はドイツ語だとかイーディッシュ語だとか色々な説が有る様です。
ロンドンはブリックレーンで初めて食べたあの素朴なプレーンベーグルは、ボンダイジャンクションにあったユダヤ人老夫婦(クライン夫妻)が経営するベーカリーが火事で閉店に追い込まれて以来、入手するチャンスが無くなってしまい、寂しい限りです。
今や世界中で食べられているベーグル、今滞在中のコペンハーゲンでもニューヨーク風ベーグルの美味しいのが、Illumの地階で売られているので、もう何度もリピートしています。
一番のお薦めは、スモークサーモンかな。